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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)6560号 判決 1969年12月22日

原告 東京トヨペット株式会社

右代表者代表取締役 松浦正隆

右訴訟代理人弁護士 宮内重治

同 田坂昭頼

同 萬羽了

同 今中幸男

被告 汾陽光行

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の自動車一台を引渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は別紙目録記載の自動車の所有者であり、かつ自動車登録名義人である。

二、原告は、昭和四三年七月九日訴外村山リチに対し右車輛を次の約旨で売渡した。

(1)  代金八一万七、二二七円(含立替金三万三、四四〇円)

(2)  支払方法頭金一二万三、七三〇円、その余は同年八月より同四五年七月まで毎月一〇日各回金二万八、八〇〇円(ただし、初回金三万一、〇九七円)づつ。

(3)  右割賦金の完済まで車輛の所有権は原告に留保する。

(4)  右割賦金の支払を一回でも怠ったときは、期限の利益及び車輛の使用権を失う。

三、しかるに右訴外人は昭和四三年八月分以降の割賦金六九万三、四九七円の支払をしない。したがって右訴外人は車輛使用権を失った。

四、被告は右自動車を占有しているので、原告は所有権に基づき被告に対し、右自動車の引渡を求める。

(なお、被告は譲渡担保の主張をするが、自動車登録名義は原告にあり、被告は対抗要件を有しないものである。)

被告は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は、原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、次のように述べた。

一、被告が原告主張の自動車一台を占有していることは認める。本件自動車は訴外村山リチが原告から買取ったものであるが、売買の条件及び履行の事実は知らない。その他の請求原因事実は知らない。

二、訴外村山リチは原告から本件自動車を買取り、これを訴外日原某に売却し、右日原はこれを訴外原口浩一に代物弁済により譲渡し、右原口は、昭和四三年八月二〇日頃更にこれを訴外斉藤虎雄に、金二八万円の債務のため、譲渡担保として引渡し、右斉藤は同日同じくこれを被告に譲渡担保として引渡した。被告は、代金を全額支払い、名義の書換手続だけを留保していたものであり、譲渡担保権に基づき右自動車を占有する権原を有する。

三、仮りに右斉藤に自動車の所有権がなかったとしても、被告は善意、無過失、平穏かつ公然に、右自動車の占有を始めたものであるから、民法一九二条によって即時取得した(なお、原告の主張する登録制度の主張については、自動車抵当法により、抵当権、質権についてのみ適用があり、譲渡担保の適用はない。)

立証 ≪省略≫

理由

一、被告が別紙目録記載の自動車を占有していることは、当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫を総合すると、原告が別紙目録記載の自動車の自動車登録原簿上の所有名義人であること、原告と訴外村山リチとの間に請求原因二記載の売買契約が成立したこと、訴外村山リチが昭和四三年八月一〇日に支払うべき同月分以降の割賦金六九万三、四九七円の支払をしなかったことを認めることができる。

右の事実によると、本件自動車は原告の所有に属し、訴外村山リチは昭和四三年八月一〇日の経過と共に車輛使用権を失ったものというべきである。

三、被告は、民法一九二条による即時取得の抗弁を主張するが、弁論の全趣旨によれば右自動車は運行の用に供せられていた車輛と認められるところ、その占有開始に当っては、自動車登録原簿を調査すべき注意義務があるものといわなければならない。従って、被告において前主の占有を信頼して前主に権利があると信じたとしても、当然に無過失を推定することはできない。

四、よって、被告のその他の主張について判断するまでもなく、原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎)

<以下省略>

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